室内でサングラス

 いつまでもここにいようと思えばいられるのかもしれないが、空になったチャイティーラテを飲むふりを、上手に行える自信はない。だから、極めてゆっくり口をつけている。そもそも、あんまり美味しくないから減らないし、ぐびぐびやるもんでも、ないんでしょう?

 頭上を電車が通過している。その振動の間隔で、上野を感じている。現在朝の8時49分。

 東京に来ると、出会いを求めてしまう。友達が欲しい。

 たとえば、わたしの斜め向かいに座っている白いTシャツの青年。彼とは仲良くなれそうだと思っている。きっかけさえあれば。しかし、彼のアイスコーヒーの減り方を見るに、まもなく…あ、全然減ってない。これでもかというくらい減ってない。

「あの、氷溶けちゃって、不味くないですか?」

気づけばわたしはそんなことを口走っていた。

「え?ああ、アイスコーヒー」

「ええ、アイスコーヒー」

「ぼく、あんまり、そういうの気にしないタイプなんですよね」

「え、ああ」

まじか。そういうの気にしないタイプとかあるんだ。あー、まじか。そういうの気にしないタイプの人とは、ちょっと仲良くなれないわ。

 ただ、さっきまで隣に座っていた室内でサングラスをかけていた男とは、もっと仲良くなれない。悪口にならないよう、心の中でその人のことを『律儀』というあだ名で呼んでいた。

 チャイティーラテ、冷めたらますます美味しくない。