karisome

 小学生が鬼ごっこをするくらいの純粋な気持ちで誰かを熱心に好きだと思えたらそれで充分なのに、余計なことをたくさん知ってできた濁った水を飲んで、わたしたちは大人のつもりの自分に酔っている。駆け引きのひとつもせず、ただ夢中で何かをまたは誰かを追いかけていたとき、わたしたちはどこまでも透明であった。

 会いたい人には約束をしなければ会えない。偶然を装った透明を乗せた電車がほとんど毎分のようにホームに到着する街もあるし、どんなに強く思ってみても遠いところにいる人には会えない。連絡を取りたくても今となっては生きているのかどうかもわからない人もいるし、わたしからの着信を拒否している人もいるだろう。

 線路の向こうにある雲は、いつも美しい。今日は櫛で梳かしたような雲だった。死んだ祖父の立派な白髪を思い出した。夕暮れになびいていた髪も夜に呑まれ、家へ着く頃には明るいだけで綺麗とは言えないような月が真上にあった。「月が綺麗ですね」で「アイラブユー」なんて、そんなんで伝わるか。だけど、言葉にしないわたしは、もっともっと幼稚で、伝わる可能性が微塵も無い。

 こんな話を、さっき友達としてきて、現実に言葉にしてみるとまあまあ恥ずかしかったけれど、やっぱりわたしは鬼ごっこしたいし会いたい人がいるしたぶんその人がいれば月が綺麗に見えて「月が綺麗だね」と何気なく言うんだろうな。新月の日は、「趣がある」と笑って、何もない空を指差して「月が綺麗」と言う、きっと。