読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

スプーン、レモン、洋燈

 地下一階の憂鬱、沈黙の色は単調ではなくて濃淡があることを知った、渋谷に誰もいないような気がした数日間、改札の前で項垂れた夜とか、不味いカレーライス、誰かの吐いた唾がやけにきらきらして、枯れた紫陽花が暗喩していたわたしの未来、心地悪いバスの揺れ方、官能的な鉄骨の柱の下で、あああの匂いがある、もう二度と、死にたいなんて口が裂けても言えないや。完成した映画を、完成した小説を、飾りとなってしまったギターを、録画していたバラエティ番組を、もう使えないコンタクトレンズを、嘘ばっかりの皮膚を。裏切った先の、裏切られた先の、幸福が逆転していればいい。薬になれなかったわたしのための薬、開き直るのはやめにしたい。紙で指を切った、もう居場所がないんです、だからずっと移動を続けている。ねえ、とわたしは誰に向かって言っているのだろう。指輪の内側にこもる熱、せめて向かい合ってコーヒーを飲むときだけは。