続・泣いた赤鬼

 青鬼が姿を消してから284年もの時間が過ぎた。

 大した収穫量のない干からびた水田や、いぼ痔のような実しかならない畑以外に何もなかった島には現在、寿司が時速250キロで運ばれてくる回転寿司チェーン店や、概念を超越した32時間営業のコンビニエンスストアなどが多数進出している。

 赤鬼の友人たちは、とうの昔に亡くなっていた。赤鬼はフリーターで、香典を払う金がなかったので、葬式は全て適当に口実を作って欠席した。友人の子孫たちは赤鬼を厳しく非難した。そして、赤鬼はふたたび孤立していった。かつて助けてくれた青鬼はもういないので、赤鬼はなす術もなく、家に引きこもるようになってしまった。赤鬼は、鬼の平均寿命が1000歳であることを恨み、自殺まで考えた。

 そんなある日、赤鬼はニュースで『引きこもり女子会』の特集を見た。赤鬼はすぐさま、先日ネオAmazonでポチったノートパソコンー 代金引換にして、運送屋を脅したのでタダで手に入れることができた ーを開いた。そして、ネオyahoo!で引きこもり女子会を検索した。血走った目で0.03秒で参加の予約を完了させた。

 会場は赤鬼の家から車で20分ほどのところにあった。ネオGoogleの到着時刻予測はあてにならない。赤鬼は徒歩52秒で会場にたどり着いた。

 会場には、引きこもりとは思えないー 芸能人に例えるならば、かつて一世を風靡したアイドル、最上もがのような ー女たちもたくさんいた。赤鬼は「赤いから」という理由で女性に分類されたし、引きこもりの女たちはサブカルが多かったので赤鬼はすぐに気に入られた。

 その中で、一人の女が赤鬼に声をかけた。ゆるめるモ!のあのちゃんのような女だ。

「あの、今度わたしのお家に遊びにきませんか?って言っても、実家なんですけど…」

 赤鬼は「わたしのお家にあ」の段階で返事をした。葬式休んでよかった。引きこもりになっといてよかった。

 その後に声をかけてきた女は全員無視した。あとはみんな光浦靖子のようにしか見えなかったのだ。あまりにしつこいブスのサブカル女には唾を吐きかけたりした。

 約束の日になった。緊張していたので、人差し指で押したチャイムが陥没した。

 ガチャ、と扉が開いた途端、赤鬼は屈強な黒人男性総勢15人に取り押さえられた。赤鬼は気を失いかけた。その時、あのちゃん似の女の声がぼんやり聞こえた。

「はよ行けやボケが」

 赤鬼は泣いた。

 

 赤鬼は目を覚ますと、白い部屋の中にいた。そしてなぜか、周りの人たちはみな英語を話している。

「やあ赤鬼!目を覚ましたかい」

 赤鬼は引きこもりの間、カートゥーンネットワークを日本語字幕付きの英語音声で観ていたので、英語が流暢に話せるようになっていた。

「ここはどこだ…」

「ここは、NASAだ」

 白衣の男は微笑んだ。

 あのちゃん似の女はNASAと繋がっていた。赤鬼が引きこもりになったと聞きつけて、赤鬼をおびき寄せるために『引きこもり女子会』を主催したのだという。赤鬼はまんまとあのちゃん似の女の計算に引っかかり、NASAの研究の対象となってしまった。

「君が眠っている間に、君について色々調べたところ、どうやら、宇宙飛行士に非常に向いている。何年もの間、君は無職だったらしいね。宇宙飛行士なら収入も多いし、君には特別なトレーニングも必要ないくらいの体力が備わっている。それに、今聞いたところだと英語も話せるみたいだしね。今すぐ飛んでいってほしいくらいだ!」

 白衣の男はまたも微笑んだ。

 無職ではない。フリーターだ。赤鬼はカートゥーンネットワークで鍛えた英語力を悔やんだ。このままだと、いまいち状況を把握できていないまま、宇宙にすっ飛ばされてしまう。

 二日後、赤鬼はいまいち状況を把握できていないまま、宇宙にすっ飛ばされた。

 しかし、赤鬼にとって、国際宇宙ステーションでの生活は、とても素晴らしいものだった。久しぶりに、自分が必要とされている感覚で身も心も満たされた。

「重力なんて必要ないさ。宇宙が僕を必要としてくれるならね」

 そう言って赤鬼はともに宇宙を旅している仲間とハイタッチをした。が、体の自由がきかず、空振りしてしまった。赤鬼は赤面した。

 国際宇宙ステーションから、日本に向けて中継することになったが、赤鬼はあまり乗り気ではなかった。あの島の奴らの目にもこの中継は届くだろう。

 「史上初、鬼の宇宙飛行士の誕生です!国際宇宙ステーションと中継が繋がっています。赤鬼さーん!」

 ふと目をやると、そこには真っ青の惑星が浮かんでいた。地球は青かった。赤鬼は、自らを犠牲にしてまで、友達が欲しかった赤鬼のために尽くしてくれた友人の姿を思い出した。そして、ふたたび人間と不仲になってしまった自分をとても情けなく思った。

 赤鬼は中継でこんなことを言った。

 「地球は青かった。僕のたった一人の友達と同じ色をしていた」

世界中の人が首をかしげた。この中継は、 赤鬼のデーモンジョークとして、その年、ネオユーキャンの新語・流行語大賞にも選出された。島の人間は、2ちゃんねるに「鬼意味わからなスギィ!」「宇宙まで行ってスベるとか草」「()」と次々に書き込んだ。スレは大いに盛り上がった。

 ただ、世界中でたった一人、テレビの前で青鬼だけが泣いていた。