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 他人の生活は尊い。

 ダサいTシャツが無造作に干してあるベランダ、動かぬ影が浮かぶ窓際、整然と並ぶ郵便受け。加工され、正方形に切り取られた美しいだけの世界。140文字で語り尽くせる日常。そのすべてが尊い。他人の生活がわたしの手の中で流れていく感覚。

 久しぶりに辞書を開くと白い虫が紙の上を這っていた。シューゲイザーを咀嚼したら歯が欠けた。詩の朗読を披露したが誰も聞いてはくれなかった。暖房の効かない部屋で脆弱なWi-Fiにしがみついたりする。人は本棚から少しずつ知識を摘み取り、金魚は小石を吐く。

 わたしは明日も生きるしその次もその次もその次もその次もずっと生きると思う。

 わたしはわたしを客観視する。尊い生活。